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加西の人々

対話の先にある、より良い答えをともに追い求めて

河合克俊さん・由紀子さん

カワイデザインワークス

2021.01.05 UP

娘さんと一緒に家族3人、温かな雰囲気のなかで話が弾む。兵庫県加西市に建築設計事務所を構えるカワイデザインワークス。2015年に河合克俊さんと由紀子さんの2人で共同設立した。

物腰が柔らかく、話し手の思いを丁寧に汲み取る河合さん夫婦。対話に重きを置き、施主さんをはじめ計画にかかわる全ての人々と一緒に、その場にしかない唯一のものを考えていく。カワイデザインワークスのコンセプトだ。より良いものを共に考える、その伴走者のようなかかわり方には河合さんの確かなこだわりがあった。

建物を利用する人にも目を向けて

奈良県から克俊さんの故郷である加西市に戻ってきた2015年。その頃から動き始めていた北条旧市街地のリノベーションに、偶然の出会いから参加することになる。とりわけ酒まんじゅう屋さんだった原田松栄堂の空き店舗改修には、精力的にかかわってきたそうだ。

補助金を活用したリノベーションだからこそ、「新しい公共性」として地域の人たちに何かお返しできる要素を生み出したい。当時、加西市の地域おこし協力隊で、現ローカルプロデューサーの下江一将さんとともに議論を積み重ねてきたという。「ただのシェアキッチンじゃなくて、まちの一部として使ってもらえるように」こうした想いからソーシャルキッチンカフェ「O Cha no Ma(おちゃのま)」が誕生した。

食に関する実践・実験の場として自分のお店のように利用できる。「食べる・買う・体験する」ことで様々なコミュニケーションが起こり、地域に開かれたお店をイメージして、リノベーションしたそうだ。その緻密な計画に驚く。内装や外装だけではない。その建物を利用する人たちにも目を向けた、河合さんの仕事ぶりを垣間見ることができた気がする。

河合さん夫婦の「こだわりの対話」

対話重視の設計。カワイデザインワークスでは、ハード面とともにソフト面にも気を配る。どのような建物を、どのように活用していくか。「最初から具体的に思い描けている人も少ないですし、逆に思い描けていても、共に対話を積み重ねていくと、変わっていく場合も多いです」

施主さんの考えに輪郭を与えること。コミュニケーションを重視するカワイデザインワークスならでの役割だと感じた。「お節介かもわからないですけど、一歩踏み込んで、お互い密に話し合い、設計していく感じです」落ち着いた声色で語る克俊さんに、頼もしさと安心感を覚える。

研究熱心な姿も印象深く残っている。カワイデザインワークスでは住居の設計監理の他、事務所や店舗などの設計監理も行う。「そうですね、やはり初めて設計する用途などの場合は、たくさん勉強しますね」そう話す克俊さん。初めて美容室を設計した際は、今、そしてこれから、どのような美容室がお客さんにとって必要なのか、様々な事例を研究し、施主さんと対話を重ねたそうだ。様々な要望に幅広く応えるためにも、常にインプットを欠かさない。

最終段階で最良の答えに少しでも近づけるように。対話を進めるうえで、設計のバリエーションを豊富に準備することも河合さん夫婦のこだわりだ。「様々なパターンを出すことで、自分たちの考えが整理できますし、早い段階で枝葉を刈り取らず、可能性を残しながら設計を進めていくことで、施主さんにできるだけ自由な発想をしてもらえるようにと思っています」そう話す由紀子さん。施主さん自身が納得のいく決断を下せるまで。設計、見積り、工事が始まる直前であっても施主さんの想いを設計に反映させる。

より良いものを共に追い求める。施主さんの想いをヒアリングするなかで、当初の相談内容とは全く違ったかたちで問題解決に至ったこともあるという。「できたら、考えておられることは、何でも気軽に話してほしい」対話の先にある、可能性に満ちた未来。カワイデザインワークスの重要なコンセプトとして根付いているのだと、2人のやり取りから感じた。

建築は治療行為のようである

施主さんとともに時間をかけて、他にはない唯一のものを作り上げる。こうした建築家としてのこだわりには、どのような背景が関係しているのだろうか。「私がイメージする建築の設計って、例えば整体やカウンセリングのような、医療行為までいかない治療行為のような感じだと思うんです。家ができたときに、なんだか気持ちが健康になっているとか、家に入ると背筋がしゃんとするみたいな」克俊さんの想定外の答えに、思わず身を乗り出してしまう。

こだわりの家を建てたい人。「自分の生活の中で、何か乗り越えたいこととか、解決したいと思うところがあって、私たちに相談してくれているんだろうなって思うので。だから、問診というか、対話を繰り返して、施主さん自身は何がテーマなのかなとか、どんなことを考えているんだろなって、色々と想像しています。自身の口から出る言葉と、自身の本当に思っていることは案外違っていたりするので。そこを私たちが理解して、上手く設計に組み込んでいけたらいいなって」。

より良い計画を提案するために

設計監理やリノベーション以外にも、家具や布製品などの設計や施工も手がけている。「妻が整理収納アドバイザーなので、収納部分についてはかなり詳細に設計しています」そう話す克俊さん。「深く考えずに今持っているものをすべて新しい住居に運んでしまうと、そのもののために大きな倉庫や収納空間を作らないといけなくなってしまう。設計段階で一度、『私たちにとって、本当に必要なものってなんだろう?』って考えた方が、全体としてバランスのとれた良い家ができますね。特にリフォームのときは」建築士と整理収納アドバイザーという双方の特徴を活かした由紀子さんならではのアプローチだ。

裁縫が趣味だという克俊さん。「そうですね、とても大きなカーテンを縫ったことありますよ。通常のカーテンの布じゃない柔らかくて薄い、真珠みたいな光り方をする特殊な生地で。大変でしたけど(笑)。布はね、もっと積極的に建築に使っていきたいなって思っています」意外な一面に驚く。関わった人の生活がより良くなるよう、カワイデザインワークスは幅広い視点で設計をとらえていると感じた。

これからはお試し移住のための住まいづくりにもチャレンジしていきたいとのこと。「意外とね、身のまわりのことって、自分が動くことで変えていけるんですよ。みんなが思っている、自分じゃ変えられない、そういう既成概念みたいなものを外していきたいなって思いますね」一人ひとり、じっくりと対話を積み重ねる。何を大事にし、何をつくるべきか。ものを、ひとを、まちを、より楽しくしていけるようなカワイデザインワークス新たな提案に胸を弾ませる。「やっぱり、いいな」と愛着のわく、そんな未来を想像して。


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