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加西の人々

持ち前の明るさと行動力で地域に元気のタネをまく

前田ゆりあさん

フォトスタジオ HALU

2020.12.14 UP

「わたし、めっちゃ前向きなんですよ。それだけが取り柄で。今の働きかたをはじめて、自分の本来の前向きさを発揮できてる気がします」。

ぱっと花が咲いたような笑顔でそう話す前田ゆりあさんは、「house studio HALU(ハル)」のオーナー。助産師として病院で働いていた経験を持つ。

結婚で加西に来て8年、住みやすくほどよいイナカのこのまちが好きだ。

思いをかたちに フォトスタジオ「HALU」

在郷町の面影を残す北条町の旧市街地。その町並みに溶け込むようにたたずむ「HALU」は、前田さんが2020年3月にはじめたセルフスタイルの写真館だ。

常駐のカメラマンはいない。ここでは、子どものありのままの表情を引き出せるママやパパがカメラマンになる。スマホや身近なデジタルカメラで手軽に撮影を楽しめるのが魅力だ。

きっかけは、2019年春。1才の誕生日を迎えた息子・伯瑠(はる)くんの記念写真を撮ろうと写真館を調べたところ、思いのほか値段が高いことを知った。自分で撮影しようにも、場所や衣装はどうしよう?そこでひらめいたのが、セルフスタジオだった。

ただ、それ以前から前田さんのなかにはこんな思いがあった。「産後や育児中のママのコミュニティの場をつくりたかったんです。保健所や病院に相談するほどでもないけど、ちょっと聞いてほしいっていう悩みを抱えてる人、たくさんいると思うんですよ。助産師の経験を活かして、わたしがその役を引き受けられたらなって」。子育ての悩みを気軽に打ち明けられる。それが、「HALU」のもうひとつの魅力だ。

あたためていた思いを、フォトスタジオというかたちで実らせた前田さん。スタジオ名は、きっかけをくれた伯瑠(はる)くんから拝借した。「5秒で決まりましたね(笑)」。それだけ息子の存在は大きい。

こだわりをつめこんだスタジオは、いろいろな役割を担う場に

ほわほわと柔らかい光がさすスタジオ。前田さん自身がプロデュースした空間だ。そのあちこちにワクワクが散りばめられていて、思わず感嘆の声が漏れた。

ナチュラルな白やレンガ調、子どもの興味を引くイラスト壁紙など、部屋ごとにバリエーションに富む背景。造花を貼りつけた窓に、ぬいぐるみやアンティークの小道具。和室には箱庭の屋内庭園が設えられ、トイレなど写真に映らない部分にもさりげなくかわいさがあしらわれている。貸衣装は、和・洋服あわせて約70点が並ぶ。

希望に沿う家が見つかったのが2019年5月のこと。「何かはじめたいときはいつも夫にプレ ゼンするんですが、これまでは提案してもことごとく却下されてきました。でも、今回は首を縦に振ってくれたんですよ。追い風が来たって思いました」。頼もしい後押しに、即購入を決めた。

そこからスタジオ完成に向けてリノベーションがはじまった。子育て中は何かと出費がかさむため節約を意識し、外壁など大きな工事以外は、家族や友人の力を借りながら自分たちで進めた。

はじめてのDIY。ペンキを塗ったり壁紙を貼ったり、衣装や小道具集めに明け暮れた。

「毎日スタジオのことばかり考えてましたね。はじめたらもう戻れないぞって、自分を奮い立たせてました」。必死に駆け抜けた完成までの8か月も、今となってはいい思い出だ。

オープンの3月下旬は、新型コロナウイルスの感染者が増えはじめたころ。「お客さんが来てくれるか心配でしたが、“完全プライベート”のスタジオであることを強みに突き進みました」 。

撮影を楽しんだり、前田さんに子育ての悩みを聞いてもらったり。数人での利用もOKだから、友だちどうしで撮影後にお菓子をつまみながらおしゃべりタイムなんてことも。オープンから半年、前田さんの手で生まれた「HALU」は、訪れる人や地域に育まれ、いろいろな役割を担う場になった。

助産師ならでは 産後ママに寄り添う出張撮影  

スタジオ経営の傍ら力を入れているのが、生後間もない赤ちゃんの記念写真「ニューボーンフォト」の撮影だ。前田さん自身がカメラを抱え、撮影に赴く。ニューボーンフォトは、母親の胎内にいたときの姿勢に近いからだを丸めたポーズが神秘的で、注目を集めているそうだ。

カメラは素人だったが、一眼レフを購入し、独学で勉強した。訪問先で悩み相談にのることもある。「助産師は一生ものの資格。メインは撮影ですが、少しでも産後ママに寄り添いたくて。赤ちゃんの扱いに慣れているから、安心して任せてもらえます」 。

そんな前田さんも今、妊娠中なのだとか。「年明けに生まれる予定なんですけど、ニューボーンフォトのお仕事は限界までやりたいと思ってます」と、おなかをさすりながら笑う。

やりたいことが地域の元気につながる

彼女のその元気は、どこからくるのか。聞けば、明るい声でこう返してくれた。「人と関わること、動くことが好き。それが元気のもとですね」。

スタジオのある旧市街地で毎月最終土曜に開催される体験型イベント「北条conne(コンネ)」のスタッフとして、企画の考案から開催に奮闘する。「どうすれば集客につながるかなって、自分にできることを考えてます」と楽しそうだ。SNSで発信する元気いっぱいの文章には、その人柄がにじみ出ている。2020年秋には、夢だったフリーマーケットを実現した。

子育てサークル「Clap(クラップ)」の運営にも携わる。加西で何かをはじめたい人を応援するコミュニティ「なにはじ加西」で、サークル代表の下村紗織さんと出会ったのがきっかけだ。 みんなで飾りつけた布を背景に子どもを寝かせて写真を撮る「おひるねアート」では、スタジオを会場として提供する。メンバーからは「家ではできないことが、ここではできるから楽しい」と好評だ。

子育てママを応援したい、愛着あるまちを盛り上げたい──自分自身のなかから湧き出る思い に正直に動く。「写真スタジオ、コンネ、クラップ…やりたいことをやっていたら、結果として地域のことにつながってました」。

前田さんのアクションは、地域への元気のタネまきだ。

病院に勤めていたときは多忙を極め、まわりを見る余裕がなかったが、「今は自分がやりたいことができてるし、息子との時間も増えました。いい感じです」と満足気。

「自分が本気で取り組んできたから、同じように本気でなにかをはじめたい人がいたら、応援したいですね」。

前田さんがまいたタネは、これからどんな花を咲かせてゆくのか。相変わらずはじけるような 笑顔に、底知れないパワーを感じた。


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