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加西の人々

場を切り開き、まちの未来を切り拓く

馬渡友樹子さん

「ママの働き方応援隊」北播磨校加西学級代表

2020.12.14 UP

「加西は生まれ育った愛着あるまち。だからこそ、自分が先頭に立って変えていきたいんです」。

そう語るのは、2児の母であり、「ママの働き方応援隊」北播磨校加西学級の代表を務める馬渡友樹子さん。控えめな印象とは裏腹に、力強い言葉が胸を打つ。

新しい自分に出会うきっかけをくれた「ママハタ」

大学進学とともに地元を離れ、大阪で会社員として働いたのち、長男出産を機にUターンした。出産後は子どもと2人で家にこもる日が続き、うつうつとした気分になっていたところ、あるコミュニティを見つけて飛び込んだ。それが「ママの働き方応援隊(ママハタ)」だった。

ママハタは、「子育て中がメリットになる働き方を創る」という理念のもと、2007年に神戸で生まれたNPO法人。その活動は全国に広がっている。

主軸となるのは、赤ちゃんと母親が教育機関や高齢者施設、企業に出向き、命の大切さを伝える「赤ちゃん先生プロジェクト」。子育て世代と地域がつながることを目指す事業だ。馬渡さんが参加した2014年は、ちょうど加西学級が立ち上がったばかりのころだった。

「赤ちゃん先生は、“子育て中だからこそ”できる仕事。そこに魅力を感じました」。ママディレクターと呼ばれる講師の養成講座を受けたのち、当時4か月だった長男を連れて地元の学校や企業などへ赴くようになった。
「訪問先のみなさんが笑顔になってくれるのが、何よりうれしい。学校では、先生方から『赤ちゃん先生がきっかけで子どもたちが優しくなった』などの声をいただき、やりがいにつながりました」。

社会の役に立てているという実感を得られたことで、ママハタの活動に入れ込んでいった。

赤ちゃん先生をサポートするママトレーナーとして、そして代表として活動する今も、その熱意は変わらない。赤ちゃん先生だけに留まらず、フリーマーケットやスイーツイベントも主催し、加西学級をリードし続けている。

ママハタを通していろんな人に出会えた。でも、いちばん驚いたのは、新しい自分との出会いだ。「以前は子育てだけで精一杯だったけど、わたしにもできることがあるんだって気づけました」。ママハタが弾みとなり、自信がついた。

地域のことは「自分ごと」 動けばまちは変えられる

ママハタを広めたくて踏み込んでいった先で、また出会いがあった。

馬渡さんを含め地元大好きな女性たちで発足させた地域新聞「幸せの黄色い新聞~かさい大スキ~」は、ママハタ同様、自身の活動の軸になっている。

フェイスブックやインスタグラムを併用し、飲食店やイベント、加西でがんばる人など盛りだくさんの地元情報を発信。SNSだけでなく新聞にこだわるのは、「紙媒体でしか届かない人にも届くように」との気配りからだ。偶数月に発行し、飲食店や市役所に配布。ぱっと目をひく黄色が、名前のとおり何かいいことありそうと思わせてくれる。

2019年2月の創刊から、もうすぐ2年。知恵を出しあい、子育てアンケートを実施したり行政に対してアクションを起こしたりと、活動の幅を広げている。

「加西は大きすぎず小さすぎず、市民の力で動かせる規模だと思います。特に子育て中の女性が動けば、まちは変えられる。それは、ママハタをやって感じたことです」。

だから、まずは自分が動く。

議会や総合計画策定審議会の傍聴に足を運び、意見や疑問を「かさい大スキ」のSNSを通じて報告する。加西で暮らす人たちに、地域のことを「自分ごと」として、もっと関心を持ってほしいから。

そもそも「かさい大スキ」のコンセプトは、「かっこつけずに心豊かに楽しく」。そこには、「地域の良いところばかり見せようとせず、課題を課題と認識して、行政と市民がいっしょになって解決していける、そんな媒体にしたい」との思いがこめられている。

「傍聴に行っても、若い世代はわたしぐらい。でも、議会は生活に直結することを審議する場。だからこそ、子育て世代が気軽に聞きに行けるような場にしたい。その前例をわたしがつくれたらなと思って動いてます」。

加西愛を原動力に、みんなが活躍できる場をつくる

地域で動くうちに湧き出てきたのは、「場を切り開いていきたい」という思い。「みんなそれぞれに活躍できる場があるはず。わたしがママハタでそれに気づいて変われたように、今度はわたしがみんなに自信を持つきっかけを提供できたら」。

ママハタで培った自信が大きな糧となり、イベントを開いたり市政に切り込んでいったりと、すでに場をつくってきた馬渡さん。そのうえで、描いているビジョンがある。

「拠点を設けて仕事仲介役をしたいと考えてます。子育て中でも、すきま時間にできるような『ちょっと仕事』。自分のスキルを活かせて、それに対する対価がもらえたら、すごく自信になると思うんです。世代や立場を超えて、みんなを巻き込んでいきたいですね。そんな構想を今、練っているところです」。

誰も踏み入れなかった土地を耕して、みんなが入りやすいようにする。そんな役割を担おうとしている。

「まちの課題と絡めた仕事も提案したいですね。だから、行政にはこれからもはたらきかけていきます。それが本当の社会参画につながると思うから」。

この人にならまちの未来を託したい。そう思わせる語りに、思わずメモをとる手を止めて聞き入ってしまった。

そう、彼女の語りには深い加西愛がにじみ出ている。淡々とした口調なのに、言葉ひとつをとっても熱量がすごいのだ。感じたままに伝えると、「“青い炎”ってよく言われます」と返ってきた。なるほど、青い火は控えめなように見えて、赤い火より温度が高い。

でも、その地元愛の源泉はどこに? 尋ねると、「家族全員が地域のことに積極的なんです。食卓を囲んで、まちづくりについて熱く語ったりしますよ」と、馬渡家の日常の風景を笑って教えてくれた。

馬渡さんが力を入れる議会傍聴、録画されたものを家族も一緒に聞いているのだとか。家族じゅうの地域を思う気持ちが相乗効果を起こし、繰り広げられるまちづくり熱論を想像して、それはぜひ傍聴してみたいと思った。

赤ちゃん先生Tシャツのグリーンが映える秋晴れの空の下。小学生と3歳の息子がやってくると、まちへの思いを語る真剣な顔が母親の柔らかい表情に変わる。この子たちも、地元愛に満ちた人に育つのだろうか。

「いろんな活動をしてますが、根っこは同じ。このまちが好きだから」。

青い炎と形容される彼女の発する熱が、その活動を通して地域に浸透していくことを願う。


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