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加西の人々

“加西とまと”をリードし、地域を育む「岡田農産」

岡田 毅さん

岡田農産

2021.01.13 UP

加西の土壌で育ったトマトは、酸味が少なくまるみのある味をしていておいしい。そんなトマトを育てる農家の中でも長い歴史を持ち、“加西とまと”のリーダー的存在と言われているのが「岡田農産」だ。

その二代目である岡田毅さんは、2013年に「岡田農産」を法人化し、設備を整えたり農地面積を増やしたりと精力的に活動している。トマトだけでなく米も育てており、酒米の山田錦は各地の酒屋からも好評だ。

加西の自然がおいしいトマトをつくり出す

先代がトマトづくりを始めたのはおよそ 60年前。自然の土を使って育て、水稲との輪作をする加西独自の栽培法が特徴だ。

1997年から就農した岡田さんは現在、水稲の代わりにヒエを栽培している。手間のかかりそうな手法だが、なぜ輪作を行っているのか尋ねると、丁寧に教えてくれた。

「トマトの収穫が終わったら水田にしてヒエの種をまき、肥料を吸わせることで土をきれいにリセットするんですね。ビニールも外して雨風にさらすことで、土は自然の状態に戻っていく。刈り取ったヒエは土壌にすき込んで、トマトの栄養分として生かすんです」。

なるほど、分かりやすい。一つひとつ噛み砕いてやさしく話す岡田さんはまるで学校の先生のようで、ついついあれもこれもと教えてもらいたくなる。

そもそも加西市はトマトの産地として歴史のある地域だ。現在も複数のトマト農家がそれぞれおいしい大玉の“加西とまと”をつくり、地元の人々から愛され続けている。

その特徴の一つは、土耕栽培であること。自然の土を使う土耕栽培は手間がかかり敬遠されがちだが、長期間の積み重ねにより熟成された土を使うからこそおいしいトマトができるのだと岡田さんは話す。

「加西の粘土質土壌と昼夜の寒暖差のある気候を生かし、ハウスには多可町のダムから流れてくる良質な水を張っています。ハウス内に生息する生物たちのフンや死骸、藻などがミネラルとなり土壌を豊かにする。施設で育てると難しいはずのミネラル補給が、灌漑水を利用することでできるようになる。だから、トマトがおいしいんだと思います」。 

加西のトマトは酸味が少なくフルーティで、トマトらしい味だ。特に「岡田農産」のトマトは、コクとうまみがしっかりと感じられる。その秘密はどうやら、加西の環境が生み出す自然治癒力を活用した巧みな技術にあるようだ。

おいしい体験を、地域の子どもたちへ

この“おいしい”体験を子どもたちにも伝えるべく、取り組んでいることがある。「岡田農産」では食育にも力を入れており、近隣の小学生を畑に招いて体験学習を行っている。

小学2年生から4年生は食育の観点から見ても大切な時期で、この頃に経験した食べる習慣は一生残るものなのだという。岡田さんの優しさは、地域の子どもたちにも向けられているのだ。

光合成の知識も持っていない子どもたちに伝えるのは、五感で味わう体験だ。まずは話を聞く、色や形を見る、触ってみる、においを嗅ぐ、そして食べる。耳・目・手・鼻・口などを使ってトマトが育つようすを学ぶのは、教室ではなかなか体験できない。

「子どもたちには、コクやうまみがどんなものかまだ分からない。学校の先生たちもコクやうまみの教え方までは知らないと思います。でも、それを伝えるのも食育。だから我々の出番なんです。『おっちゃんのトマト食べたあと、口に味が残るやろ。それがうまみやで』と教えています(笑)」。

以前はトマトが苦手な子どもが多かった。しかし今では、トマトをまるかじりする子が増えたのだそう。これは学校や各家庭における食育だけでなく、「岡田農産」での体験学習による効果なのではないだろうか。

「小学生たちが畑に来ているとき、端から端まで見ると先生たちも楽しそうな顔をしているんですよ。おいしいと笑顔になるんですよね」と優しいまなざしで語ってくれた岡田さん。体験学習の現場でいちばん楽しそうな顔をしているのは、きっと岡田さん自身なのだろうと感じた。 

品質を高めるために工夫を凝らす

土耕栽培のトマトは、品質を安定させるのが難しい。土壌は毎年状態が変わるからだ。 トマトの品質を評価する賞はいくつかあるが、安定が難しいことから入賞する農家の顔ぶれはよく入れ替わるのだそう。

だが「岡田農産」は2002年から5年間連続、2010年以降は2020年まで毎年入賞を果たし ている。

「長年同じ場所でこのやり方でやってきていますから、土も熟成しています。この積み重ねは、ほかではすぐに真似できない部分。さらに工夫して品質を安定させて入賞することが、1年間の目標の一つですね」。

もちろん、トマトに限らず米も高品質なものをつくっているのが「岡田農産」だ。酒米の山田錦は、出荷先である全国の酒造会社が全国新酒鑑評会で金賞を取れるようにと、粒ぞろいがよく品質の高いものを。食用米も食味計の計測によるAランクを高得点で毎年安定して取得しており、贈答品としてもぴったりだ。

「お米の検査員をする米屋さんとも付き合いがあるので、そこで情報を仕入れて勉強ですね。その中には、農家同士のつながりだけでは分からないことも。いい米の見方を教えてもらって、米づくりに活かしています」。

いいものをつくるには、育て方だけでなく見る目も重要になる。さまざまな方向から知識を取り入れて実践する岡田さんの姿勢に、つくり手としての土壌の豊かさを感じた。

効率を上げ、鮮度を生かす 

実際に農作業をしているのは、岡田さんと先代にあたるご両親、そして社員2人。収穫の時期にはパートも雇うが、基本的には少人数だ。だからこそ「どうすれば作業効率を上げられるかをいつも考えている」という岡田さん。

農地を増やす際は近い場所にして水の管理をしやすくしたり、機械は大きいものでなくとも性能を十分に発揮できるようにしたりと、工夫が凝らされている。

また、自分の強みと弱みをしっかりと把握して、強みである「鮮度」を生かすのも工夫の一つだ。 

「鮮度が武器だから、直売所での販売に力を入れています。販売しているトマトは、収穫から最短1時間くらいの本当に新鮮なもの。ヘタがピンとしているのが新鮮な証拠。鮮度がいいものを食べられるのはすごいことなんですよ」。

トマトや米を食べる人、酒米を使って酒をつくる人、「岡田農産」の一員として働く人。それぞれの喜ぶ顔を思い浮かべながら、田畑と日々向き合っていく。

直売所にはトマトの香りが漂い、「岡田さんのトマトはおいしい」「コクとうまみをしっかりと感じる」と購入する人の声が直接聞こえてくる。子どもの頃から販売の手伝いをしていた岡田さんにとっては、こういった声が昔からうれしかったのだそう。

「やっぱり、おいしいものつくっておいしいって言われたいですよね。食べることは、人間の本能の部分。そこに携わる仕事ができるというのは、素敵なことだと思っています」そう話す岡田さんの誇らしげな笑顔がまぶしい。

トマトを約 3 倍に濃縮した「太陽のトマトピューレ」の販売も行っており、加工部門は妻の美香さんが担う。「形のよくないトマトたちでつくってみたら、これが本当においしくって!」と終始笑顔の美香さん。岡田さんご夫婦は、二人三脚で明るく駆け抜けていく。

新鮮でおいしい“加西とまと”を届ける岡田さんは、地域に優しくあたたかい光をも届けているのだ。その光はこれからもきっと、地域を育む太陽となっていくことだろう。


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