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加西の人々

繋げ、育む、ローカルプロデューサー

下江一将さん

ローカルプロデューサー

2020.12.10 UP

総体的にまちづくりをする。ローカルプロデューサーとして活動する下江一将さん。兵庫県加西市に約6年前に移住してきた若者だ。「その人が本当にやりたいことを手引きする。繋ぐだけならコーディネーターになるけど、今、目の前にいる人がこんな風になって、まちもこんな未来に繋がっていく。トータルで考えるから、そういう意味でローカルプロデューサー」

下江さん自身も、その定義を確認するように1つひとつ丁寧に言葉を発する。まちを育むための独特な目線、この活動ならではの立ち回りについて、移住当初の地域おこし協力隊をはじめ様々な視点から話をしてもらった。

タイミングを計り、俯瞰して繋げる

地域おこし協力隊として加西市に移住してきた下江さん。最初の課題意識は、空き家や耕作放棄地、里山保全や鳥獣被害に向いていたそうだ。「こうした課題の共通点。上の世代から下の世代への継承が必要だということ。だから、まずは若い人たちが主体的にチャレンジできる環境づくりが重要だと思った」

その1つが柏原春陽堂印章店の空き家改修。昭和10年に創業した春陽堂だが、店舗を移したことで北条旧市街地の建物は空き家状態となっていた。「旧市街地の空き店舗が増えてきて、地域のおっちゃんたちが新しい人に来てもらいたいと、年1回のイベントを開いていた。でも、なかなか結果が出てこない」

困りごとに対して、どんな人を繋げるか。まち全体を俯瞰して解決策を考えるのがローカルプロデューサーの役割。「空き店舗があるなら、片付けをして使えるように。どうやってやるか分からないってなることを想定して、『実は加西にDIYが好きな若者たちがいる』って、そうした人たちが集まるコミュニティを作り、繋いでみた」地域の人が集える、世代を超えた交流の場「まちなか春陽堂」。こうした繋がりを経て、2018年5月にオープンしたそうだ。

他の何者でもない。ローカルプロデューサーという立場でかかわってきたからだろう。「上手くいったと思う」感慨深げに語る下江さんが印象的だった。「今、誰が何を欲しているか、どこまで動き始めているかを観察してタイミングを計る。このタイミングで、この人が行ったら、こんなことに繋がるんじゃないかって」双方のメリットも意識していると聞いて、まち1つを動かす壮大な視点に自ずと心躍ってしまった。

ローカルプロデューサーの積み重ね

地域おこし協力隊の任期は3年。特に1年目は情報収集に徹したとのこと。ローカルプロデューサーとして動き回るためには、下江さん自身の関係づくりも欠かせない。「基本的にイベントなど、いろんな団体の会議に参加した。『加西に移住してきたんですけど、加西のこと分からなくて、どんなまちですか』って。まちの課題や若者としてどんなことができるか、会話のなかで情報を集めていった」

下江さんが住む「西在田地区ふるさと創造会議」にも出席したそうだ。そこでは地域で育てたラズベリーを特産品にしたいという要望が。ラズベリーの商品開発やイベント出店の話があがったタイミングを見計らって、イベント経験のある若者たちを繋いでいった。

一方で、こんな難しさも。「僕1人が話しに行っても、地域のおっちゃんたちは『ええな、面白いな』で終わってしまう。あくまで下江くん1人の意見でしかないと。もっと若者の声として届けるために、若い人たちが集まれる環境づくりを並行してやってきた」

その代表例が「いまココHOUSE」。下江さんの住居を活用した、コミュニティスペースづくりに励む。正式にスタートしたのは移住3年目からだと言うが、1年目からワークショップを開くなど、若者が集える場をつくってきた。「最初は市外の人も呼んでいたけど、いきなり外から来てチャレンジする人もなかなかいなかった。地元の人の方が、地元を良くしたいって想いが強いから。だから、内から始めていった」一朝一夕ではない。継続的な積み重ねが、まちづくりにおいて重要なポイントだと感じた。

加西は食、新たな繋がりを生み出すために

加西に移住してから3年、地域おこし協力隊として活動してきた。4年目には「ワンダーアースクリエイト」という会社を起業したという。「ミッションは地域資源を使ったトライアンドエラーができる環境づくり」春陽堂と同じく旧市街地にある空き家を改修し、「ソーシャルキッチンカフェ O Cha no Ma(おちゃのま)」をオープンさせた。

レンタルキッチンとして利用してもらい、出店を経験した人が地域の空き店舗を活用する。加西のお土産づくり、飲食店のネットワークづくりにも取り組んできたらしい。「食をベースとして、何か社会的な価値を地域に落としていく。そんな場として運営している」

食に注目した理由もローカルプロデューサーならでは。「若い人たちに『加西で何がほしい?』と尋ねてみると、お洒落なカフェが結構おおくて。加西の特徴を話してみても、上位にくるのは食や農業だった」加西では食。その事実よりも、多くの人が答えたことに意味がある。「加西の課題。まちづくりに取り組む人はいるけど、そこが上手く繋がっていない。食をテーマにすることで、新たなコラボ、大きな動きが生み出しやすくなると思った」食と何を組み合わせるか、どんな食を突き詰めていくか、今後の方向性にも注目だ。

下江さんもチャレンジ中

自然好きの下江さん。移住当初は田んぼや畑もしていた。「若い人たちのチャレンジを応援しながら、必要であれば畑や山にも繋いでいきたい。本当の想いとしてある」あくまでも、その人を尊重しているので、全ての話が自然と結び付くわけではない。そこまでたどり着けるかどうか、実験中なのだという。

他にもチャレンジを。ボランティアではない。地域や社会、誰かのために貢献したいという想いから行動を起こして、生活も成り立つ世の中にしたい。そんなモデルの確立をめざしていると、わくわくした表情で語る下江さん。「社会のために何かやりたいと思っても、やっぱり生活とかがって。そんな人って世の中にいると思う。そこでモデルを示していけたら、希望になるのかなって」ゴミ拾いから里山整備まで、地域貢献といっても様々。こうしたモデルに共感する仲間と一緒に情報発信にも挑戦したいそうだ。

まちに溶け込み、まちを好きになる

「興味をもってもらう。そこは大事にしてたかな。あと気を遣い過ぎないこと。地域の人とコミュニケーションをとるときは、『そうなんですね』ではなく『そうなんや!』ってイメージで」まちに溶け込む秘訣を語る。

そうして、たくさんの人と出会ってきたから。「加西の好きなところ?人が好きだね。何もないからとかじゃなくて、やっぱり頑張ろうとしている人たちもいる。コミュニケーション次第でやっていける環境だと思うから。やりがいはある、凄く。だから、チャレンジも楽しいって感じ」

様々なスケールで動き、人を繋ぎ、まちを育む。ローカルプロデューサーによる加西のまちづくり。このまちがどんな未来を歩むのか。人の、まちの成長した姿を想像して期待に胸を弾ませてしまった。


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