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加西の人々

神社と物作りを繋げる、「URUMI」らしさの追求

山本 周平さん・草子さん

URUMI

2023.03.21 UP

加西市の北東、宇仁地区にある八王子神社の境内に、凛とした雰囲気のカフェ『URUMI』が佇んでいます。そのお店を営んでおられる、山本さんご夫妻を取材させていただきました。

記事中にあるように、複数の生業をされていながらも、どれも他にはない、独特の価値観を表現されています!

 

 

《自己紹介と『URUMI』について》

 

ユニテ

初めに自己紹介をお願いします。

 

山本さん

『URUMI』の山本さん周平と、妻の草子です。僕の方は実家が神社ということもあり、神社の禰宜と家具制作、あとは事業全体の統括と子育ての手伝いをしています。妻の方はギャラリーカフェの運営と調理、子育てをしつつ、家具製作のお手伝いもしてもらっています。

 

『URUMI』という名前は、播磨風土記に記載されている、この地域の古い名称から来ているんですけど、「雲潤(うるみ)の里」っていう響きがすごくいいなと思ったんですね。覚えやすくて耳障りもいいですし、「地域に根付いて長くやっていきたい」という思いにも合っていたので、『URUMI』という名前を使わせてもらうことにしました。

 

『URUMI』の事業形態は、主に3本の軸からなっています。まずは神社ですね。神社のことを手伝いつつ、お祓いをしたりとか、七五三をしたりとか、他にもホームページやお守りも作って、少しずつ神社を事業化しようとしています。

 

二つ目は家具工房です。デザイン性や温かみのある手作りの家具を作って販売しています。三つ目がカフェギャラリーで、こちらは妻がメインでやっていまして、素材にこだわった体に優しいお菓子と、ハンドドリップのコーヒーなどを出しています。

 

 

《ギャラリーへのこだわり》

 

ユニテ

ギャラリーについて、詳しくお聞かせください。

 

山本さん

ギャラリーに関しては小売スペースなんですけど、僕たちが作った家具や雑貨と、あとは厳選した雑貨ですね、真鍮の小物だったり、フレグランスだったり、僕たちの好きなものを置いています。この半分カフェで半分ギャラリーの建屋と、木工の工房は参道を挟んで向かい合わせで建っていまして、「全てを神社の中でやっていく」というスタンスでやっています。今年からは衣服の展示販売や、別棟でのジェラートショップの運営も展開しています。

 

お店のコンセプトとしては、「凛とした女性」や「優しさ」で表されるような空気感を大切にしています。お店に入ってきた時に一拍おくような感じですね。「静かな気持ちで、心の充実感を味わっていただけたら」という思いで空間を作っています。

 

ギャラリーの全てにこだわりが詰まっていて、僕たちが思う本当にいいものや、価値のあるものしか置かないようにしているんですね。なぜ、わざわざそんなことをするかと言うと、消費社会に対する反抗であったりとか、「皆さんそれぞれが、自分にとって価値のあるものを見つけようよ」という僕からのメッセージなんですけど、そういうことを大切にして、店舗はデザインするようにしています。

《神社と物作りを繋げる》

 

ユニテ

神社に関連した製品も作られているんですよね?

 

山本さん

はい、かなり昔からの目標として、境内地の手入れをする時に出る間伐材を利用したいという思いがありました。ここの神社は山の中にあるのですが、山というのは木を切って新たに光を入れていかないとどんどん死んでいってしまうので、定期的に間伐し、基本的に切ったものはゴミになってしまいます。しかもお金を払ってゴミになるのが、もったいないし嫌だったんですよ。だから間伐したものを、とりあえず置いてもらったりしていました。

 

それで試行錯誤して、ようやく製作化まで辿り着いたのが、間伐材で作った「鏡餅」です。伝えたいメッセージをリーフレットに込めて、箱もしっかりと作っています。1年中、飾って頂いてもいいんですが、1年に1回しか出さない方もいらっしゃるので、きちんとした箱にしまわれていれば、世代を超えて大切にしてもらえるかなと思ってこだわりました。鏡餅にかけている水引も妻が作ってくれています。全てを自分たちでデザインし、神社の木を加工して製品にするというのは、ずっとやりたかった事の一つですね。

 

同じシリーズの「盛り塩」は開店祝いですとか、玄関に置けるようなデザイン性のあるものをと考えて作ってみました。あとは金と銀の箔押しをした「お守り」と器類ですね。どれも同じ神社の木で作っています。

 

樹種はそれぞれなんですが、正直なところ地場の木って、それほど品質が良くないんですよね。家具なんて到底つくれるものじゃないんですけど、それを「美しいものに昇華させていきたい」という思いがあります。ずっと「本来価値のあるものに、相応の価値を与える」ことがしたくて、今それをやっているという状態です。

 

《神社の長男として生まれて》

 

ユニテ

これまでの人生について、お聞かせください。

 

山本さん

実家が神社で、そこの長男として生まれました。生まれた時から跡継ぎになることは確定していたんですが、中学生くらいの時に父から「神社だけでは食べていけない」と聞かされて、現実を突きつけられましたね。

 

神社というのは個人の所有ではなく、そこに住む神職も基本的には雇われているような感じなので、跡継ぎがいないなら家を放棄して出ていかないといけないんですね。そのことに加えて、父がサラリーマンをしながら休日に神社の仕事をする生活を続けてきたように、自分も兼業をする必要があるということを聞かされて。この辺りから「自分が何になりたいか」を探し始めるわけですけど、跡を継ぐことが大きな縛りになりましたね。

 

「この場所で何かやりたい」、「この場所でやるしかない」って考えた結果、消去法で出てきたのが「山小屋で家族と物作りをする神主さん」でした。と言っても、その時はもっとぼや〜とした感じで、パキッとしたイメージは全然なく、特に目標というものもなくて。よくある自分探しですよね。「自分は何をやりたいんだろう?」みたいな。ただ、クリエイティブなことや、人と違ったことをやりたかったんですよね。これもよくあることですけど、「自分はすごい人間で、やればできるし、やる時が来ればやるんだ」って思っていましたし(笑)。でもまあ、やらないですよね。そこからの10年くらいはずっと悶々とすることになります。

 

大学で東京に行ったんですけど、卒業した後も正直フラフラしていました。ただ、ぼんやりとした理想みたいなものもあったので、ずっと小さいチャレンジはしていたんですよ。友達に「フライヤーを作って」と言われたら作ってみたり、フリーのイラストソフトを使って絵を描いてみたり、動画の編集とか、図面っぽいのを書いてみたりとか。周りにはクリエイティブな人が全然いないし、フリーターで暇なのもあって、趣味の範囲でごちゃごちゃと作っていました。いつか役に立つだろうって思いながら。

 

 

《家具作りの勉強を始める》

 

山本さん

自分の将来について、しっかり考えないとダメだなと思ったのが、東日本大震災の後くらいですね。ノリで地元に帰ってきたものの、就職先が決まっていたわけでもなかったので、なにか面白い仕事はないかなと探していた時に、父が働いている木工体験のできる施設を訪ねてみました。そこで木工という物作りに触れ、その瞬間に進む道が見えた気がしました。

 

それからは、祖父の大工道具を使って、木で椅子やテーブルを作ったりしつつ、木工の学校とか、家具が作れるような仕事はないかなと思って、姫路をフラフラしていたんですけど、そうしたら建築会社がやっている家具と服屋さんみたいな店舗を見つけたんですよ。そこで「家具を作らせてください」と言ったら、「家具を作れるの?」って聞かれて、「作ったことないです」と答えたら、「じゃあ無理なので、服を売って」と言われて、服の販売をすることになりました。それはそれで、お洒落な場所に行きたかった自分としては良かったんですけど、結局はそのあと、長野に家具作りの学校があることを知り、勉強をしに行くことにしました。それが27歳の時です。

 

ただ、学校に行くことにしたものの、卒業後の就職先も決まっていないし、長野の山奥だし、「これがやりたい」と思って行ったわけですが、やっぱり怖さが大きくて。自分は元々は安定志向の人間なんだと思うんですけど、「自分のやりたいことはこっちだ!」って振り切った結果、もう怖くて怖くてしょうがなかったです。だからこそ、さらに振り切って自分らしさを出そうとしていました。

 

その意気込みのおかげか、27歳で初めて自分の意思で行った学校生活は、今まででにないほど充実した1年となり、基礎的な家具作りの知識と技術の習得はもちろん、同じ夢を追いかける仲間ができたこと、そして今の妻とも出会うことができた、人生の大きな転換点となりました。

 

《経験を積み独立へ》

 

山本さん

学校を卒業して、妻は私の父が働いている施設で木工の先生になり、僕はというと、そのタイミングでもやっぱり無職でした(笑)その後も僕が無職のタイミングが何回かあるんですけど、妻は全く焦らないんですよね。「自分は働いてるし、やる時が来ればやるだろう」と思ってくれてたみたいで。本当にすごいです。

 

それから私も木工製品を作る小さな会社で働き始めるんですけど、木工製品の知識だけを吸収してすぐに辞め、次に建具屋さんで働くことになりました。建具というのはドアや扉や欄間のことなんですが、木工の中ではかなり細かい作業をする分野なんですね。その時はとにかく難しい技術を得たかったので、飛び込みで「雇ってください」と訪ねていって、ここで初めて職人という世界に飛び込むことになりました。

 

その会社に入ってからは作家活動みたいなことも始めて、仕事が終わった後に職場の工房を借りたり、友達の工房を借りたりしながら、少しずつ自分たちの作品を作り出しました。およそ2年くらいが経って、大体の技術も学べたし、そろそろ自分の表現がしたいなと思っていたタイミングで、以前に服の販売をしていた姫路の会社から「家具の職人さんが辞めるから、働かないか」という話をいただき、あまりにドンピシャ過ぎて、すぐに「行きます!」と返事をしました。それで今度は、その工務店が姫路でやっているオーダー家具兼、服屋さん兼、アンティークショップみたいなところで働くようになります。

 

そこではとにかく、自分の技能とか知識を広げようとしました。建具屋さんは工房内での仕事なので、お客さんと会う機会はほとんどなく、渡された図面を元にひたすら作るという作業だったんですが、姫路の会社ではお店全体のことを任せてもらえて、製作も販売も、店舗をどうしていくかも自分で考えることができました。かつ工務店の仕事もあったので、現場に出たり、監督補助みたいなこともしたり、他では絶対に体験できないこともやらせてもらえました。

 

ただ、その時にはもう「自分のやりたい事に戻りたい」、「山小屋で家具を作りたい」という頭になっていたので、会社を辞めて独立することになりました。

 

独立してからは今まで吸収してきたことを、ひたすら放出していく作業が始まるんですけど、慣れていないのでなかなか難しくて。お金のために仕事をきちんと取らないといけないけど、全てを受けていたらやりたいことができなくなるので、仕事の選び方とか進め方を考える必要がありました。あと、こんなことをやりたいという理想も、厳選していかないと収拾がつかなくなるので、きちんとまとまりを考えて形にするようにしています。

 

《『URUMI』らしさの追求》

 

ユニテ

お店や作品から感じる統一感は、どのようにして生み出されるのでしょうか?

 

山本さん

僕は作ったものを妻に見てもらって「これどう?」と聞くことが多いんですけど、何か違うなと思いながら見せると、やっぱり妻も何か違うなと思っているんですよね。何か違うなとは思うものの、その違和感をずっと言葉にできずにいたんですが、最近になって2人の間で「『URUMI』っぽいか『URUMI』っぽくないか」というキーワードが出てきました。デザインにしても、SNSなどにアップする写真にしても、この「『URUMI』っぽいか『URUMI』っぽくないか」のフィルターを通して決定し、具現化している感じです。

 

写真を例に取ると、そこに写る全体的な美しさだったりとか、凛とした空気感の中に温かみや優しさが漏れてる雰囲気とか、そんなところが『URUMI』っぽいなって感じます。空間で言うと、物の配置が少しズレているだけでも『URUMI』っぽくなくなるんですよね。この感覚って、たぶん自分たちにしか分からないことなんでしょうけど、こういう違和感は色んな人が無意識に感じるものだと思うので手は抜かず、全てを自分たちで作るっていう意味合いを込めて、大切にお店づくりをしています。

 

《これからやりたいこと》

 

ユニテ

これからの目標や展望などはありますか?

 

山本さん

まず、これからも『URUMI』らしさを追求し、表現していきたいと思っています。あとは工房を拡大したいというのもありますが、最終的には神社と、好きな事と、人とお金が組み合わさって『ウルミの郷』という場所が作れたらな、というのが目標ですね。

 

来年から展開する衣服のことで言うと、取り扱い予定のブランドは神社や『URUMI』と共通する部分があると感じていて、特に目立ったところだと、大麻の繊維で服を作られているんですよね。神社と大麻は昔から古い繋がりがあるんですけど、薬物的な意味でだいぶグレーなイメージになっていますよね。そんなグレーな部分からアプローチしてみるのも面白いし、違うターゲット層のお客さまが来られるかなと思って、取り扱いを決めました。

 

それとジェラート店ですね。元々されていたお店を閉められるということで、ウチが買い取って神社の境内でオープンすることになりました。素材にはこだわっていて、今のままでも美味しいんですが、ブランドとしては色がほとんどないので、これをどういう色に染めていくかで悩んでいる状態です。これも今後の目標の一つですね。

 

理想としては、「父が神社、母はジェラート屋さん、妻がギャラリーカフェで、僕は家具と工房をそれぞれ受け持つ」みたいな、家族みんなで仕事をする環境を作りたいですね。将来的にはその環境が、子どもたちの何かをするきっかけになればいいかなと思っています。

 

《何かを始めようとしている方へのメッセージ》

 

ユニテ

最後に、何かを始めようとしている方へメッセージをお願いします。

 

山本さん

何かを始めようとする方のご相談にのったり、アドバイスをしたり、他の方の夢を見たり聞いたりするのはすごく好きなんですけど、僕たちがそういう集まりに入っていくことは、あまりないんです。仲良しごっこみたいになりそうなのが好きではなくて。自分たちで何かを始めようとする方と一緒にやるなら、利害の一致があった上で、仕事として関わりたいなと思うんですね。なので単純に「一緒にやろう」というのには違和感を感じることが多いんです。それぞれが始めたことに付随して、自然と関わっていく形をとれるのが理想だと考えています。

 

今の加西の魅力は、色々な方がそれぞれ独自の看板を掲げ、それぞれの場所から、それぞれの色で発信されていることだと思うんですよね。それは遠目で見るとまとまっているんですが、近くで見ると意外と離れているんですよ。これがあまりにもくっついて混ざってしまうと、あまり綺麗な色にはならないんだろうなと思います。やっぱり個々が、自分の大切にしていることで何かを始めるというのが、大事なのではないでしょうか。

 

「何かを始める」ことって、自分を殺さない、殺させない唯一の方法だと思うんです。何にも縛られることなく自由な状態でありたいなら、何かを始めないとできないんだと僕は考えています。これから何かを始めようとしている皆さんには「明日を夢見る世界に来ませんか?」と伝えたいですね。

 

ユニテ

ありがとうございます。自分のやりたいこと・大切にしていることに向き合い、まずは自らスタートしてみる、ということですよね。心強いメッセージ、どうもありがとうございました!

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